
曹洞宗では『転読大般若』と呼ばれる御祈祷を行います。『転読大般若』とは、『摩訶般若波羅蜜多(通称:大般若経)』の経文を読むことにより、その功徳をもって世界の平和や各参加者の平安などを御祈祷申し上げることです。
『大般若経』は『西遊記』にも出てくることで有名な三蔵法師玄奘(602~664)が晩年になってから4年余りの年月をかけて配下の訳経僧たちとともに翻訳したあらゆる仏典の中で最大規模を誇る経典です。文字は約五百万文字、全部で六百巻となります。内容は、大乗仏教の空思想に基づく般若思想を記録したものであり、全部で十六の場所において釈尊が法を説かれています。
また、玄奘三蔵はこの訳出を終えてすぐに亡くなってしまいましたが、自分の生存中に経典の翻訳が終わったことについて、諸仏や龍天の助けがあったと述べられたことから、この経典が国家や民衆を守ってくれると信じられ、『大般若会』の成立となりました。尚、『般若』というのは、大乗仏教の菩藤原京薩が重んじる『六波羅蜜』という徳目の一つの『般若波羅蜜多』のことです。これは、『智慧の完成』を意味します。
日本に於ける『大般若会』の歴史を遡ってみると、703年に藤原京にあった四大寺に天皇が命じて行わせたようで、その後は寺院のみならず朝廷の宮中にも僧侶が出張して行われました。737年になると、奈良市にある大安寺で毎年行われるようになり、中世に至って全国に広まってます。
『大般若会』は、その式の中で『大般若経』600巻を全て読みますが、恐ろしく膨大であるため、当然全て正しく読む(これを「真読といいます」)のは至難の業です。
先に挙げた大安寺で150人の僧侶がこの法会に参加したようですが、現在の曹洞宗寺院では少人数で行われる場合が多く、その時には、略して読む方法(これを「転読」といいます)が採られています。
「転読」の方法は、時代によって変遷があり、当初経典が巻物であった時代には、題名と中間、末尾のみをめくって読んだそうです。
その後、現在のような折本が出てくると、左右前後に振るようにして転読としました。(一説には、経文に節を付けて読むことを転読とする見解もあります)
この転読の際に出る風に当たると、一年間無病息災になるといわれます。